日本にある官民協働刑務所の玄関には「リハビリテーション・プログラム・センター」(Rehabilitation
Program Center)と書かれています。でも、どうして刑務所が「リハビリテーション」なのかと違和感を感
じる方は多いと思います。歴史的に、障害者を多く生んだ 「第一次世界大戦」を契機として、「第二次世界
大戦」後には、頭部外傷や脳卒中の「リハビリテーション」として広く定着しました。
しかし「こちらも同じくリハビリテーションだ!」と、法務省が声高に主張してこなかったことが要因と
なって、「リハビリテーション」=「手足の訓練」との誤解が生まれました。
でも本来の「リハビリテーション」は「更生」「全人間的復権」の意味も含み、単に「手足の回復」より
も、「職業的、経済的、人間的に、社会で生きる権利(人権、名誉)を取り戻す」意味で用いられます。
司法領域の社会参加の際しては、当事者が雇用や地域のつながりから脱落して、社会の片隅に追いやられる
「社会的排除」ではなく、暖かく、優しく手を差し伸べられて、社会から孤立を防ぐ「社会的包摂」が望まし
いとされます。その意味で、司法領域のSSTは、当事者が自らの尊厳を取り戻し、社会で生きていく上での困
難さを克服し、新たに「生きる力」を身に付ける「リカバリー」の支援を行います。
近年、心身に障害のある多くの受刑者が刑務所に収容され、短期間で入退所を繰り返す実態が、TV等でク
ローズアップされました。野宿をして、おにぎり1個を万引きしたり無銭飲食を繰り返して、軽微な罪で刑務
所に戻る者(累犯者)が数多く存在します。私は、知的障害や精神障害の受刑者を収容する「ユニット」で、
矯正教育を受注した大手建設会社一員として、刑務所の開所から約3年間、週1回のSSTを障害受刑者に行い
ましたが、知的障害のある受刑者は、実に、全受刑者の1/4を占めると考えられています。
SSTを行う日は、事前に個別面接を1対1で行いましたが、彼らの中には、SSTへの参加と引き換えに何ら
かの特権(仮出所など)を暗に要求する者もあり、それに応じないとSSTの15回のセッションは一貫して無言
を貫き、他の者にも無言を通すように影でグループを操作する者もいました。SSTのポスターを読み上げる
際にも、参加者10名のうち2/3が連続で「パスします」と拒否し、刑務所SSTの難しさを肌で感じる場面が
ありました。そんな中、Aさんと出会いました。Aさんは40代男性で、てんかんと不眠症、罪状は窃盗でした
が、Aさんは、反抗的な態度を示す受刑者とは別に、SSTにとても積極的でした。それは、刑務所収監中に父
親を亡くし、親の葬式にも出席できず、自分の犯した罪を深く一人で反省していたことが理由でした。
Aさんは「出所後、家族に謝罪と感謝・決意を伝える」共通課題のセッションで「亡くなった父親に謝る練
習」を強く希望しました。本来SSTは、生きている人に自分の気持ちを伝える練習を行いますが、Aさんの強
い希望を受け止め、亡くなった父に墓前で再起を伝える練習(父に謝罪し、これから人生をやり直す気持ちを
伝える練習)を行いました。サイコドラマの技法に「エンプティ・チェア」(空のイス)がありますが、Aさ
んはお墓を想定した「空のイス」を前に、床に頭をこすりつけて、言葉にならない声で、泣きじゃくりながら
謝罪し、これからはもっと真面目に生きていくと涙ながらに誓いました。それを見ていたSSTスタッフ全員
が目を赤らめてAさんを見守り、今後の人生を応援したい気持ちを抱く場面でした。
1.日程;2018.8.22-23/2019.2.25-26/2019.8.22-23
2.場所;東京(アルカディア市ヶ谷)
3.参加者;30名
4.講師;SST普及協会・認定講師4名(吉田、品田、河島、岸本)
(前田ケイ先生が考案)
社会生活技能の推移(3カ月後の自己評価の結果)
(結果)SSTを行うことで障害受刑者の現実吟味が
深まる「きっかけ」を作ることができる。